事前認定や本人による被害者請求で、その認定結果に不服がある場合、異議申立手続きをとることができます。

体の一部を失ったり、関節の可動域に制限が生じたり、顔に傷あとが残ったりといった、いわゆる「目に見えやすい後遺症」の場合、認定結果に不服が生じることはあまりありません。ですが、頚椎・腰椎捻挫後の後遺症(頚部痛、腰部痛、上肢のシビレ・痛み、下肢のシビレ・痛み、頭痛、めまい等)や高次脳機能障害、反射性交感神経性ジストロフィーなどいわゆる「目に見えにくい後遺症」については、画像所見・検査所見によって明らかな他覚的異常所見が認められる場合は別として、症状の実態がそのまま等級認定として反映されづらい後遺症ともいえます。

弊所にも、頚部痛で非該当の方から等級認定を受けたい、あるいは、手足のシビレについて14級から12級に異議申立をしたいなどといった相談者が多く来所されます。
弊所は、「目に見えにくい後遺症」については、事前認定1回のみでは、実態をなかなか評価されないのではないかと基本的には考えております。何故かといいますと、たとえば、むち打ち症に苦しむ被害者が事前認定を受ける場合、その実態を説明ないし証明するのに資料が不足していることが多く見受けられるからです。

異議申立をする際に重要なことは、非該当(もしくは不服な等級認定)となったポイントを正確に理解し、新しい医証を補うことです。
被害者本人が異議申立をする場合、異議申立書のみで新たな医証を添付することなく、加害者の対応などを一生懸命訴えるケースがありますが、ほとんど役に立ちません。後遺症が後遺障害等級として評価されるのは、あくまでも身体的に残った症状の程度がどうかという点にあるからです。その症状を裏付けるに足りる医証をどのように整えるか、そこにポイントを置くべきなのです。

ところで、「後遺症」と「後遺障害」は似て非なるものです。
後遺症は医学一般的な語句であり、症状固定後に残った症状を言います。
一方、後遺障害は労災保険、自賠責保険における制度上の語句であり、その症状が制度上の要件・基準に合致した場合、等級として認定をされるものです。ですから、医学的に傷病名がついたからといって、即、後遺障害等級として認定されるものでは必ずしもありません。あくまでも認定される為の要件・基準を満たしているかどうかにかかっています。

これを例えて言えば、「うちの子供は5歳だが、小学校に入学できる学力があるから、小学校に入学させてほしい」と言っても入学はかないません。
学齢で6歳に達しなければ小学校に入学をすることは出来ないのです。「学齢で6歳に達している」、これが制度の上で小学校へ入学する為の要件であり基準になります。

同じ事が後遺障害等級の認定実務にも言えます。
例えば、被害者の症状を診てお医者様が「高次脳機能障害」と診断したとします。しかし、画像上には明らかな異常な所見が無く、認定結果は非該当だったというケースはよくあります。
自賠責保険では、「高次脳機能障害」に認定される為には、
1. 脳の損傷等が画像で認められ
2. 意識障害が一定期間続き
3. 人格の変化や記憶の低下が著しい
という三要素を満たす必要があるからです。
実際が、小学校1年生と同等の学力がある5歳児であっても、学齢で6歳に達していなければ小学1年生になれないのと同様に、いくら「高次脳機能障害」を窺わせる症状があり、後遺障害診断書にもその旨が記載をされたとしても、上記の三要素がそろわなければ、自賠責保険の後遺障害としては等級認定されないのです。
あくまでも、自賠責保険は要件・基準の世界だということです。

では、自賠責保険の要件・基準にあてはまらず等級認定を受けられないけれども、実際に後遺症で苦しんでいる被害者はどうすればよいか?という問題があります。このような場合は、弁護士に依頼し、裁判所において判断してもらうことも1つの方法かもしれません。

繰り返しになりますが、異議申立をし、自らの後遺症を自賠責保険上の後遺障害等級として評価してもらうためには、認定のポイントに留意して、要件・基準を満たす為にどのような医学的資料を整えればよいのかを検討することに尽きます。また、そもそも、自賠責保険の枠組みで評価されうるのか、といったことも考える必要があると思います。

そのためにも、特に異議申立の場合、自賠責保険の後遺障害の実務に詳しい専門家に相談することをお勧めします。

後遺障害の手続きについては、経験と実績がある専門家に依頼することが非常に重要です。